初夏、残像
わたしの友人は身体に無数のタトゥーを入れている。
15歳、はじめて友人と行ったライブハウス。
17歳、はじめて入った真夜中の地下のクラブ。
当時ロックを好んで聴いていた。
HIP HOPのB-BOY達よりも、ロック界隈の人たちは見た目が怖かった。
首元から足首まで全身に入ったタトゥー。
緑や赤の奇抜なヘアカラーとスタイル。
眉や鼻、口元に開けられたピアス。
大きなフードのパーカーに、足元はハイソックスとスニーカーのオールドスクールなファッション。
田舎暮らしのわたしには、目に映る、そのなにもかもが新鮮だった。
強烈な色彩。
ライブハウスとクラブ通いをしていた2007年の高3の冬、2月。
祖父が亡くなった。
10年経った。
そのときも'いま'も変わらない思い。
タトゥーをずっと、ずっと入れたいのだ。
チェーンのついた十字架を。左足の足首に。
タトゥーを入れることは一種の呪いだ。
まず痛みを伴う。
そして、消すことができない。
消しても、元どおりの皮膚の色にはならない。
そして、社会の偏見。
ここが一番大きい。
まともな会社は認めないだろう。
まともな男性は敬遠するだろう。
生きていくためには、仕事も、男も、必要だ。
だからずっと、わたしはタトゥーを入れられない。
忙しなくすぎる毎日で、たまに忘れてしまう。
祖父の存在、祖父から与えられたもの、愛された思い出、果たせなかった約束。
でも、自分の身体は毎日必ず見る。
タトゥーを入れれば、きっと思い出す。
毎日を、1日をたいせつに、生きていける気がする。
鮮明だった記憶は、いつしか、曖昧となり、思い出すこともなくなり消えるのだろう。
17歳、モノクロ、青春、喧騒、死。
あなたの顔も、いつしか、ぼんやりとあやふやになり、残像みたいに、はっきりとは思い出せなくなるのだろう。
27歳、カラフル、黄昏、静寂、生。
左は、心臓のある方。
足がなければ歩むことはできない。
'もの'と'もの'を繋ぎとめる、鎖。
そして、背負う十字架。
夏の日、残像。