東京二十六時
快楽に溺れることはなかったけど、寂しさにはもう幾度となく溺れている。
いっしょに夜を過ごすことよりも、いっしょに朝を迎えることのほうがむずかしいこととか。
大切に思われたぶんだけ、大切に思えたなら。
愛しいと思われたぶんだけ、愛しく思えたなら。
君は核心に触れないように、曖昧な話題をひたすら喋るし、わたしはそれをうんうんと聞いている。どちらも決して触れようとしないこの会話が、ふたりの関係性のすべてを物語っている。
いつからだったっけ。
言葉とこころが矛盾していると気づいたのは。
ねえ、もう、なにも言わないで。
言葉にすればするほど陳腐になるから。
口にした瞬間、魔法はとけてしまうから。
ねえ、もう、わたしになにも言わせないで。
あなたを独り占めにして、永遠にしたくなるから。
こんな夜は甘やかしたいし、甘やかされたい。
いつまでたっても大人にはなりきれなくて、でも、もう、夢見るこどもでもいられないこととか。
目の前の現実から逃れられないことも、受け入れるしかないことも。
こんなわたしを抱きしめてよ。
そんなあなたを抱きしめたいよ。